都議会総務委員会傍聴記3ー2 参考人宮台真司氏の意見聴取

5/18都議会総務委員会。

付託議案審査(参考人からの意見聴取)

青少年・治安対策本部
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/schedule/general_affairs.html

参考人意見聴取のうち、宮台真司氏の分をまとめます。今回もあくまで不健全図書、インターネット(ケータイ)フィルタリング、ジュニアアイドル誌規制の3本柱についての議題です。ただしこの質疑においてはインターネット、ジュニアアイドルについては意見なし。
[]内は私の感想・補足。

参考人プレゼンテーション

こちら http://2cheureka.nomaki.jp/tojyourei01/ 参照。ほぼ同内容。会議資料もこちらに少し手を入れたものだそうです。こちらを把握していないと質疑の内容は意味がとれないはずなので読んでください。[私も前日聞いた内容なので、聞く側に注目してみました。共産吉田理事が「うんうん」と言う感じでメモをとっていたのが印象的。自民川井委員が途中退席。質疑の前に戻ってきた。自民田島委員は寝っぱなしのように見えた。*1]

鈴木勝博委員(民主)の質疑

鈴木:どう子どもを守っていくのか。行政はどう関与するのか。悪いマンガはどのように扱うのか。
宮台:日本は自殺率が高い。高くなってきたのは98年以降。山一証券破綻が97年で、景気と連動している。つまり「金の切れ目が縁の切れ目」という薄っぺらい社会。人々の絆が形成されていない。行政はここに関与していくべきだ。その際、情報開示が大切。
不健全図書は指定数が減っている。行政の関与がうまくいった例だ。なぜ(行政自身が)行政をダメだと言うのか? ゾーニングも進んでいる。む無論、さらに必要性を説いていかねばならないが。無限定的に、成人の性表現物享受も悪しきことであるかのような条文は由々しき問題だ


鈴木:中に「表現規制はしない」と書いてある質問回答集を作ったが「ムダ」だと…(苦笑)詳しくおうかがいしたい
宮台:ゾーニングの実施にあたってはカテゴリ分けが不可欠。今回そのカテゴリ分けの要件が曖昧。対象物に恣意性がある。第七条二

年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

これは主観次第で何でも入る。この条文は東京都の恥。また、第十八条六[長大なのでリンクのみで。http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/08_joureikaisei/sinkyuutaisyou.pdf ]児童ポルノの根絶および青少年性的視覚描写物のまん延防止に向けた都民等の責務、これは何? これは何ですか!? 成人が持つことを悪としている。この条例は青少年保護が目的ではないんですか? 行政は! こういうことを! してはいけないんです! これは自明のことだと思います。


鈴木:日本独自のマンガ表現について詳しくおうかがいしたい
宮台:設定とキャラクターの見かけが分離するのが日本マンガの神髄。少女に見えて1000歳であるとか、成人女性に見える絵柄で子どもだとか。それをどう評価するか、参考事例は世界にはない。むしろ日本がヘゲモニーを握り、世界に対して「こういう(日本特有の)表現は従来の児童ポルノとは別のものなのである」と言っていくべきなのであって、都の活動は向きが逆。

吉原修委員(自民)の質疑

吉原:人によって観点が違いますね。我々は子どもを守っていかねばと思っているが、現状についてどう思われているか
宮台:観点はそんなにない。犯罪は減っている。強制わいせつは増えているが痴漢等の取り扱いカテゴリが拡張されたことによる。したがって新しい問題を設定する必要はない。むしろ青少年の生きる力―危機回避能力などが減っていることが問題。また、エロ本を子どもが持った場合、親が子どもにコミュニケーションをとらず、いきなり行政を呼び出すことも問題。


吉原:しかし共働き家庭も多い。家庭教育にも限界があるのでは。赤枝先生は現場にいる。その赤枝先生が規制を求めているが。
宮台:社会がプライマリなプレイヤー。行政はセカンダリ。緊急避難が要請されているならそれは必要。しかし行政は本質にどう関与している? 日本は長時間労働[平均労働時間を外国と比較した数値を出す]。ここを放置して子どもとのコミュニケーション改善はない。ワークタイムバランスの問題。緊急避難に行政が関与するにしても二次的に関わるべきであり、その際も(あくまで緊急避難であること、他に根治の方法があることの)メッセージを付与していくべき。


吉原:質問回答集には成人でも子どもに見えるキャラクターはダメとは書いていないのだが

3 18歳未満に見えるキャラクターが出てくる漫画やアニメは、全て見られなくなるのですか?
いいえ、そのようなことはありません。
まず、条例改正案の「非実在青少年」は、漫画などにおいて、年齢や学年についての明確な描写や台詞、ナレーションにより、明らかに「18歳未満」と設定されているキャラクターに限定されます。
見た目が幼く見えたり、声が幼く聞こえたりするキャラクターで あっても、「18歳以上」であると明確に設定されていたり、年齢や学年が不明であったりするものは、この「非実在青少年」に当たりません。
さらに、子供が見たり買ったりしないよう、成人コーナーでの 販売を求めるのは、「18歳未満」と設定されているキャラクター (「非実在青少年」)が、「性交又は性交類似行為」をしていることが 明確に描写されているもののうち、子供にとって特に悪質なものに 限定されます(問4、問6を参照して下さい)。
したがって、「18歳未満のキャラクターが出てくる漫画などが全て見られなくなる」ようなことはありません。

青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/04/20k4q500.htm 

宮台:法律は条文がすべて。質問回答集は司法の条例解釈を拘束しない。条文に書いてあることのみが大事。そして条文には何が入る、何が入らないという明確な規定はない。


吉原:強力効果説、限定効果説、どちらにしても「全く影響はない」とはしていないのでは[いやだから強力効果説は否定されてるって]
宮台:表現は人に影響を与える。そのために描かれているのだから。犯罪傾向に影響を与えるかどうかは資料・プレゼンの通り、「メディア=悪」←こちらは×。「メディアを放置する社会=悪」←こちらが○。しかしこの場合においても、「社会」は行政のことではない。

松あきら理事(公明)の質疑

大松:不健全図書指定について既に憲法21条に違反しないとの判例が出ているがいかがお考えか。また現行制度下での区分陳列についての評価は?
宮台:現行第八条にもとづく不健全図書指定はおおむね効果があると認める。ただし、区分陳列されることで死滅する表現もあることに留意が必要。改正第七条二、改正十八条は現行を大きく外れる。現行条例の効果をもって改正案を支持することは全くできない。


大松:教育は家庭でやる。その上で、子どもに見せたくない図書がある現状、行政と手を取っていかねばならない。現行では想定されていなかった、子どもに対する強姦が肯定的に描かれたマンガは区分陳列に含めなければならないと思うが
宮台:さきほど「現行第八条にもとづく不健全図書指定はおおむね効果がある」といった。これは改正の必要なしということ。子どもに対する強姦というが、改正第七条二は強姦等具体的な規定はない。一方波及効果が大きすぎる。作家、同人誌コミュニティが萎縮する。

吉田信夫理事(共産)の質疑

吉田:個人的法益と社会的法益について。

・だが非実在青少年描写で個人的法益(人権)を侵害される当事者は不在。

とのことだが、????[聞き取れず。日本人の名前だったと思う]などによると非実在であっても女児の人格が否定されるのだという議論があるが
宮台:ジュディス・バトラーの論点である「ポルノは女性に対するある種の社会的通念[女性は隷属的な性であるということ]を助長する」という論は一考に値する。しかし行政の関与は否定する。ポルノといっても、BLで女児が人格を否定されると思うか? そして人格が否定されるかどうかを行政が決めてよいのか? ここでは不意打ちされない権利のみ、論じるに値する。


吉田:受容環境について詳しくおうかがいしたい
宮台:家族・地域・ホモソーシャルなコミュニティ(部活など)で支えていくもの。
私の父母はカストリ世代だし当時は夜ばいの習慣も残っていてノイジーな環境だった。それでは私の父母は不健全か? そんなことはないだろう。それは社会が分厚かったからだ。私の若い頃は部活ではしごきがあったが、しごきという語に悪い意味はなかった。
過激な性的表現物に出会ったとき(ホモソーシャルなコミュニティが機能していれば)

「先輩こんなことってあるんですか?」
「これはない」
「先輩こんなことってあるんですか?」
「これはなあ、もっとゲロイぞ!」

というコミュニケーションが成立するはず。
大人になればどのみちノイジーな社会に出る。


吉田:表現に対する萎縮について。単なる区分陳列となっているが。
宮台:質問回答集は都の私的な見解。条文を信じるべき。

西崎光子委員(生活者ネットワーク)の質疑

西崎:毎日新聞のコラムに斉藤環氏のコラムにて反対意見が出た[ http://b.hatena.ne.jp/entry/mainichi.jp/select/opinion/jidainokaze/news/20100411ddm002070082000c.html 元記事削除済]。「見せなければ済むという問題ではない」とのことだった。しかし実際親として心配な面もある。条例を改正しない場合、親はどのようにアプローチすればいいのだろうか
宮台:社会的逸脱には2種類ある。

a. いかなる価値観によっても認められないもの(人権侵害など)
b. 個人の趣向によって受け入れられないもの(性的志向など)

この二つを混同してはならない。bについては、親は子どもに「自分にはこれは受け入れられないが、君はどう思う?」という問いかけをしていくことが肝要。ましてbをaと考え行政に訴えかけるという恥ずべきことをするべきではない。


西崎:今回の改正案は市民に分かりづらいとの声が出ている、これに対しては市民でチェックしていくべきだと思うが
宮台:おっしゃる通り。下から議論していくべき。今回の混乱で、結果的に市民を議論に巻き込んだ。この状況は利用するべき。
今回の改正案はPTAの?方々も?知らない[宮台風半疑問で読んでくださいw。このとき宮台氏、自公委員をねめつける。都職員は彼の背後なので助かった]。ぶっちゃけ、一部の役人、なんとかカンリョーの中で同意されたんでしょう。プロセス重視で市民の側から議論したなら、いきなり条文を通そうとするはずはないし、パブコメを開示しないはずはない。このような態度に条例案の本質が隠されている。法律はこのように作ってはいけない。


西崎:この条例案には、被害児童の救済案についての記述が何もないが。子どもの性的自己決定能力を高めていかねばならないと思うが
宮台:子どもの性的自己決定権が重要。子どもの性的自己決定能力とは、親が子どもの性に何も言えないということではない。「俺はこう思う、ママはこうなんだね? 君は? そう思うのか。最終的には君が決めろ。君の幸福が何なのか、俺には分からないから」このようなコミュニケーションで育てられる。社会に出ればどのみちノイズに触れる。そのとき対処できる子どもを育てるのが親の役目。純粋培養で対処能力のないまま大人になると、その大人は何かというと行政を呼び出す大人になる。この悪循環を断たねばならない。


以上です。最後の一言すごいオチwww。都の職員は嫌みを言われたことに気づいたろうか。傍聴者はリアクション禁止なので、私は笑いをこらえるあまり椅子から落ちそうになってしまった。委員会終了直後、席に戻る都職員と一緒になったのだが「宮台先生は頭よすぎて何言ってるか分からなかった」だそうです。えー?明快じゃん。「前田先生は先輩」とも言ってたから東大文一卒だろうに。

*1:傍聴人席の位置の関係で、公正中立な感想ではありません。例えば私の位置からは民主浅野委員、鈴木委員は見えない。