都議会総務委員会傍聴記3ー3 参考人田中隆氏の意見聴取

5/18都議会総務委員会。

付託議案審査(参考人からの意見聴取)

青少年・治安対策本部


参考人意見聴取のうち、田中隆弁護士の分をまとめます。今回もあくまで不健全図書、インターネット(ケータイ)フィルタリング、ジュニアアイドル誌規制の3本柱についての議題です。ここでは不健全図書についての話題のみピックアップしています。ただしこの質疑においてはジュニアアイドルについては意見なし。
[]内は私の感想・補足。

参考人プレゼンテーション[順序をいじっています]

改正案は、青少年保護に児童ポルノという別概念を持ち込んだ。児童ポルノは読み手が青少年か青年かに関係なく一律禁止するべきもの。不健全図書は読み手の青少年のための規制。木に竹を接いだような改正案だ。


二つの異なる問題が交錯している。児童ポルノ所持規制と、非存在青少年規制だ。
非存在青少年に関しては、人権主体でないものを規制案に持ち込むことはかえって人権保護の理念がぶれることにもなりかねない[そうそう。現実にポルノに出演させられた被害者の子どもとフィクションのキャラクターを混同するのって、前者に対してあまりに非道ではないですか?彼らの受けた被害はそんなに軽いことですか?]。この件は都でなく国会で議論するべき問題だ。


性的表現物が青少年の性的非行につながるおそれ、性的表現物が青少年の性的判断能力の成長につながるおそれ、どちらも学問的根拠はない。学問的知見がない以上、特定の図書が青少年の健全な育成を阻害するというのは当局がそう考えているにすぎない。立法事実がない。[聞き慣れない言葉ですが、後で説明されます]したがって恣意的運用につながるのは当たり前である。質問回答集はやっきになっている。


年齢区分を非存在青少年に持ち込む件、質問回答集

3
18歳未満に見えるキャラクターが出てくる漫画やアニメは、全て見られなくなるのですか?
いいえ、そのようなことはありません。
まず、条例改正案の「非実在青少年」は、漫画などにおいて、年齢や学年についての明確な描写や台詞、ナレーションにより、明らかに「18歳未満」と設定されているキャラクターに限定されます。
見た目が幼く見えたり、声が幼く聞こえたりするキャラクターで あっても、「18歳以上」であると明確に設定されていたり、年齢や学年が不明であったりするものは、この「非実在青少年」に当たりません。
さらに、子供が見たり買ったりしないよう、成人コーナーでの 販売を求めるのは、「18歳未満」と設定されているキャラクター (「非実在青少年」)が、「性交又は性交類似行為」をしていることが 明確に描写されているもののうち、子供にとって特に悪質なものに 限定されます(問4、問6を参照して下さい)。
したがって、「18歳未満のキャラクターが出てくる漫画などが全て見られなくなる」ようなことはありません。

青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/04/20k4q500.htm 

の通りなら実効性がない。


第九条三

2 知事は、図書類発行業者であつて、その発行する図書類が第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定(以下、この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去一年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にあつては当該過去一年間に、過去一年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあつては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が二以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に不健全指定を六回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。

は出版社に対してペナルティを課している。出版の自由への介入になりかねない。


現行条例は具体的な規制であったのに改正案は規制の要件が抽象的になっている。
今までも、各団体から規制強化の声があった。表現の自由に鑑みて、それに対抗してきた歴史がある。これは東京都の誇りではないか。


青少年にも人権があり、表現にアクセスする権利がある。規制は最小限にとどめるべき。また、不健全図書を発行する権利もある。18歳未満のキャラクターが登場するエロマンガが存在するのは女性の結婚年齢が16歳なのだから当然である。

上野委員[この方がどなたか分かりませんでした。総務委員会には上野さんという委員はいないはず。公明上野和彦さんかな?]の質疑

上野:表現の自由の侵害について。憲法12条

第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民 の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

日本国憲法第3章 国民の権利及び義務

にもあるのだが、青少年の健全育成が「公共の福祉」に当たるなら12条ベースで議論できるのでは[12条持ち出してきた!ここはとても重要だと思います!]
田中:人権がどのように侵害されるのかは人格による。[?]本件は具体的事実なく、性的成長が阻害されるのではないかという憶測にもとづく過度な制約である。


上野:科学的根拠がないとはいえ、親からの「声なき声」もある。[公共の福祉!声なき声!ファシズムキターー]曖昧な文言を排するまで規制できないのかと言う葛藤もある。どうすれば理解を得られるのか。(参加者全員「ちょw田中弁護士は廃案派なんだからさー」という雰囲気に)いや分かってるんですけど(苦笑)なんとか……
田中:今まで、親からの声に対して都は抵抗してきた。図書が性的成長を左右するという考えこそを変えていかねばならない。また仮に、100万人のうち99万9999人がいかがわしいと言ったとしても、表現規制に関してのみは、特に、法的に議論ければならない。


上野:「家庭で教育しろ」論について。家庭教育への行政の介入だと言われている。しかし一方、児童虐待に関しては行政で関わっていけという世論だ。どう考えるべきか。
田中:家庭の解決力に依拠できない場合というのは児童の生存に関わるレベルのこと。有害図書問題とは程度が違いすぎる。児童虐待に関してすら、過度の介入は家庭に亀裂を生むことが分かっている。


上野:「子どもを支配する」改正案だとおっしゃるが、現行条例についてもそう思っていらっしゃるか
田中:90年代までは「青少年も人権を持った自主的な主体である」という理念でやってきた。最近そうではなくなってきている。淫行処罰規定[青少年の淫行について青少年への処罰を盛り込む規定。東京都と長野県にはない。]には反対したが、97年の改正で青少年の人権侵害規定が入った。夜間外出禁止、故物売買禁止などだ。図書についてはこれまでなんとか保ってきたが……


上野:改正案は限定的な規制で、表現規制ではないのだが、表現規制だとする根拠は?
田中:第九条三。表現の自由は出版物に正しくアクセスできることを含んでいる。「買い手もいいけど配っちゃダメ」では事実上の規制。また、青少年ー3歳とかは問題にしないとしてーはアクセスする権利主体ではないのか? 彼らのアクセス権に関して、きわめて限定した遮断であるべき。だが改正案では範囲が広範になってしまった。


上野:岐阜県の例で「厳密な科学的証明がなければ違憲であるとは言えない」という判例がある。多くの人は子どもが強姦される図書を子どもに与えたくない。科学的根拠が出るまで、何の策もとってはならないのか。判断保留でいいのか。
田中:岐阜の例は改正案のような広範な規制でない。現行条例は岐阜の例をひいて議論してよいだろうが改正案は比較にならない。「多くの人が」と言うが「多くの人が与えたくない」と「多くの人が思えば法で規制してよい」とには距離がある。

松あきら理事(公明)の質疑

大松:児童ポルノの現状と対策についてご意見うかがいたい
田中:児童ポルノは規制しなければならない。ただし、虐待の事実を精査する必要はある。
児童ポルノ関係は人権立法。条例が人権立法だとすれば、非存在青少年関連の条文は容認できない、人格を持つもの持たないものをごっちゃにすることは人権立法としておかしい。しかし一方「性欲感情を刺激する図書」とは読み手のことで、被害者は関係ないでしょう。こちらをとるなら改正案は治安立法化している。第十六条二は私生活に対する重大な介入である。また外国の例でも実効性がない。単純所持規制で単純所持は減らないし、単純所持規制で性犯罪は減らない。


大松:インターネットに流れれば、被害者は一生の傷を受ける。アグネス・チャンさんも「本当に被害者の子供たちは、今まで撮られたものは全部消してほしいんです。だれかが持っているというのを思うだけで、本当に毎日レイプされているというような気持ちになってしまうんですね。」とのこと。こうした思いから入れているのだが……。「児童ポルノの定義が不明確である」という批判が「児童ポルノ禁止」への批判に置き換わってはならない。[誰もそんなこと言ってない]。第十六条は努力目標。「まん延抑止に向けた気運の醸成」で何か問題が生じるのか
田中:児ポ法の実績は認めている。逆に、単純所持禁止なしでもここまでできている。児童ポルノは地域性を持たない[大松理事自身が言ってんじゃんね]東京だろうが他の地域だろうが同じ。そして国会で議論されているときに都条例にいれることではない。努力目標で何か被害が出るかと言えば出ないかもしれないが、効力もないだろう

吉田信夫理事(共産)の質疑

吉田:青少年の健全な育成に対して、行政はどのように関わっていくべきなのか
田中:青少年保護育成条例制定の昭和39年当時にも反対運動はあった。「アンチ悪書追放運動」だ。それに対し、青少年の立場に立った条例であって、青少年への規制じゃないんだということで対応してきた。17期青少協にて、淫行処罰を求められたが、青少年の自己決定権をもとにした条文になった。これは子どもの権利条約採択以前のこと。22期、青少年からの聞き取りをもとに、淫行処罰でなく買春禁止にもっていった。26期、不健全図書指定を包括でなく個別指定とし、書店への警察官立ち入りを採択しなかった。成人年齢も18歳に改正になるこの大きな流れの中で、条例の持っていた先進性を継承していくべき


吉田:「立法事実」という言葉について詳しくおうかがいしたい
田中:法は権利、自由を規制する以上「こんな事実があるから規制する」という根拠が必要。それを立法事実という。現行条例では、それぞれの規制対象に、危険性・非行誘発性の蓋然性を絞りこんでいった。今回具体的にそれが示されない以上、科学的知見を立法事実とするしかないがそれもない。


吉田:表現の萎縮について詳しくおうかがいしたい
田中:質問回答集8で言うのは自由だが、

条例の「自主規制」は、子供の健全な育成を阻害するおそれのあ る図書類を「子供へ売ることのないよう」、図書類の発行や販売に関 係する事業者(出版社、書店など)に、自主的な努力をお願いする ことです。
具体的には、該当する図書類について、表紙に「成年コミック」 などの表示をした上で、いわゆる「成人コーナー」など、一般の誰 でも見られる書棚とは区分された場所に置き、子供が買うことのな いように努力していただくものです。
漫画家の方に、「そのような作品を描かないように自主規制する」 ことを求めるものではありません。そのような作品を描くこと、出 版すること、18歳以上の方に売ることは、全く規制されません。

青少年の健全な育成に関する条例改正案質問回答集
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/04/20k4q500.htm

第九条三に出版社へのペナルティ規定がある。構成要件が不明かつ立法事実もないとすれば、描き手に判然としない、抽象的なおそれを誘発する。自粛・混乱が起こるだろう。現実に権力行使の件数がわずかでも、どこまで規制されるのか分からないのでは表現を慎むようになる。

西崎光子委員(生活者ネットワーク)の質疑

西崎:宮台氏が質問回答集は無意味だとおっしゃっていたが、法で争った場合[裁判?]効力を持つのか
田中:法律家から見ると悩ましい問題だ。自主規制は業界が行う。不健全図書指定は青少年健全育成審議会が行うのであって、つまり規制をするのは都ではない。この際審議会は質問回答集の解釈に拘束されるのか? 拘束されるとすれば審議会に付託する意味があるのか? 逆に質問回答集に反したひどい規制を審議会がやった場合、質問回答集を根拠に訴えて勝てるか? どのみち無意味。


西崎:この条例が治安条例の色を帯びてきているとのこと。子どもの権利条例が必要では
田中:あくまで子どもの権利主体性から考えるべき。この条例も本来はそうだったはず。この5、6年の改正はそれにとどまらず「青少年はほっとくと何をしでかすか分からない」というもの。子どもの権利の基本条例のようなものがいるかも。


田中弁護士は版元へのペナルティと言う新たな論点からの表現規制批判を持ち込んだと思います。本条例が治安条例に、また青少年保護育成でなく青少年「へ」の規制に変容しつつあるという指摘も納得できるものでした。
生ネ西崎委員は会を追うごとに切れ味鋭くなっている印象です。ただ子どもの問題につて包括的に考えているのでどちらに転ぶかはちょっと想像つかない。以上です。