森見登美彦の諸作

夜は短し歩けよ乙女」があまりに楽しかったので、森見登美彦の既刊を読んでいた。

太陽の塔

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

楽しいけど「夜は短し……」の方を先に読んでしまったのが不運。続き物ではないのだけど、「太陽の塔」の結実が「夜は短し……」なので。


「四畳半神話体系」

四畳半神話大系

四畳半神話大系

やばい。これはまずい。「無意味で楽しい毎日じゃないですか。何が不満なんです?」いいええ。なあんにも。今でこそ職業を持ち、一定の収入の恩恵を得、心の健康も辛うじて保ち、靴に月3万使うという日本人らしい一点豪華主義的浪費癖もある、しごくまっとうな社会人としての仮面をまあ一応かぶって生活している私だが、ほんとうはこういう世界が理想で、ああいうダメ生活に戻りたいという願望の噴出を常に押さえ込んでいるのだ*1。そういう人間に取っては劇毒です。SF要素もぴったりはまっている。ダメ生活を送っていた頃、あまりの都合の良さと日々の変わりばえのなさに、自分が「それさえもおそらくは平穏な日々」的にパラレルワールドを地滑りしているという妄想に襲われることが何度もあった。プチ現実乖離。あの感覚が小説にそのまま仕掛けとして使われているので、ちょっとびっくり。あの妄想って普遍性があったのか。


「きつねのはなし」

きつねのはなし

きつねのはなし

雰囲気小説。それで充分。しかしこの手ばかり書く小説家であったら、好きにならなかった可能性が高い。好きな作家のこの手のは歓迎だが…。逆は真ではないのだな。4篇のなかでは「果実の中の龍」がかなり好き。

*1:あまり知られていないようだが、森見的大学生活そのまんまの暮らしを送っている喪女大学生は結構多い。ダメであることに男女の区別などないのだ残念ながら。