猫鳴り

猫鳴り

猫鳴り

沼田まほかる、今一番好きな作家かも知れない。
前二作は「信頼できない語り手」に「男を見る目がなさすぎる女主人公」を導入した小説で、それを期待していたのですが、今回はそうじゃありませんでした。まあそれは、前作「彼女がその名を知らない鳥たち」でやりきっているからな。

三作目のこれは、猫にまつわる三部作。

  • 第一部 子のいない夫婦の元に居ついた猫の物語。
  • 第二部 子猫を拾ったことで初めて理解し合う父子の物語。
  • 第三部 妻に先立たれた第一部の夫が老猫を看取る物語。

あらすじは確かにこんなもんなんだけど、そんな情報を鵜呑みにして読むと思いっきりだまされる^^;; まほかるお得意のイヤーな登場人物達。大人は下層で、くだらなく、つまんないヤツらだし、子どもはなんか気持ち悪い。さらに猫が全然可愛くない^^;;;;。
第二部の息子なんか、公園で幼児を見ながら勃起しつつナイフ握っちゃうようなヤツだし、父は完全子育て放棄。でも、ラストで父子が話し合うシーンは最高だ。これが本当の「救い」ってもんでしょう*1
第三部の怪猫(というしかない)の最期は執拗な描写で圧巻。一人で酒を飲みながら外で読んでいたので、涙をこらえるのが大変だった。悲惨なだけじゃなく、ちょっと笑っちゃう描写も多い。そこでむしろ泣けてしまう*2。猫を看取った経験のある人だったらもっと心に響くのかも。

と言うわけで、本当の意味で「いい話」なのでした。

*1:まほかる本の書評は「救いがない」と書いてあることが多いけど、何を読んでいるんだと思う。元僧侶のこの作家のテーマはもちろん「救済」で、それぞれの主人公はラストに必ずそれを与えられている。

*2:これ良い「泣ける話」の基準ね。悲しいことを書いて泣かせるのは簡単。そんなもんで出るのは安い涙。ちょっとボケた部分でどっと泣けるのが正しい「泣ける話」。