時のかさなり

時のかさなり (新潮クレスト・ブックス)

時のかさなり (新潮クレスト・ブックス)

歴史や戦争について語っているものであっても、作品である以上完成度が重要と言う立場だ。ぶっちゃけ、下手くそな原爆画とかお呼びじゃないのである。

その点、これはかなりいい。レーベンズボルン(生命の泉)プロジェクトのうち、占領地域下での子供の誘拐についての小説なのだが、まず語りの仕掛けが凝っている。
レーベンズボルン計画で拉致られた少女から4代に渡る年代記なのだが、通常のサーガと違って下の世代から語っていくのだ。1章の語り手ソルが曾孫、2章ランダルが孫、3章セイディが娘で、最終章が本人クリスティーナ。しかも各章の語り手が全員6歳。6歳視点なので、本人に理解できていない部分が多く、そこが謎として残される。前の章で子供に理解できなかった思い出話が、次の章で明かされていく。
この語りだけで十分小説として面白い。もう途中で、この一族が何人なのかすら分からなくなるもんね。仕掛けをウリにしているわりに見かけ倒しの凡作が多かった2008年の翻訳小説の中で、これは光っている。

冒頭も素晴らしい。1章の語り手ソル(ソロモン)の性格設定にまず度肝を抜かれる。なにしろこのガキ、趣味はgoogleでレイプ画像を収集してオナニーすることと(はい、6歳です)、レゴでアブグレイブ刑務所を再現すること。この時点で引き込まれますね。でも、読み進めるとやっぱりカワイイ6歳です。結局。

一族はレーベンズボルン計画に翻弄され続けるわけだが、その影響が単純には出ていない。この一族には遺伝性とおもわれる痣があり、ソルは傲慢さから、痣に怒りを抱いている。ランダルは祖母クリスティーナの影響で痣に愛着をもっているが、母セイディにはそう言えない。セイディは恥じている。クリスティーナは素直に愛している。この痣は自我の象徴。4人はそれぞれ、自分自身に対してそう思っていると言うことだ。ソル、ランダル、セイディは微妙にかわいそうな子供。クリスティーナだけが、自由で魅力的。直接の被害者なのに。
これは明らかに親のせいで、3人の親が自分の悩みが一番で子供は二の次なのに対して、クリスティーナの親だけが真に愛情もって子供を育てているから。
が。クリスティーナはレーベンズボルンの子供なわけで、育ての親はナチか、少なくともナチシンパなんだよね。血のつながりのないナチが一番いい親だったという。

もちろんクリスティーナは7歳以降大変な苦労をする筈なのだが、そこは直接には、語られない仕掛けになっている部分もよい。同じように誘拐されてきて「兄」となったリュートとの妖しい関係もステキで、ここだけ耽美小説のよう。
各世代の政治的立場が憎悪の連鎖の象徴になっているところも興味ぶかい。ソルは子供だからおいといて、ランダルはイラク戦争微妙に支持のアメリカ人プロテスタント、セイディはシオニスト、クリスティーナはノンポリ通り越してボヘミアン。ここだけ見るとそんな一族あり得るか! と思うが、4人の生い立ちを見てしまうと深く納得。