ケルベロス第五の首

ケルベロス第五の首 (未来の文学)

ケルベロス第五の首 (未来の文学)

TRPGの自分のPC*1がテルミヌス・エストをぶん回していた*2
そんな恥ずかしい過去のある私なのに祭に乗り遅れてしまった。反省。トークショー行きたかったなあ。
今さらレビューをしてもと思うが、5年後ネットを漁る人には書かれた時期が8月だろうが12月だろうが問題にならないと思うので書いてみる。
2回読んで書き込みをしながら3読目。日本語の書評サイトを大体ざっと回ったところ*3。e-とらんすとSFマガジン特集号は注文中。

リーダビリティ

 内容の濃さを考えるとびっくりするくらい読みやす! 柳下さんありがとうと言うところだが、原文もきっと緻密に構成されているんだろう。「新しき太陽の書」ってこんなに読みやすかっただろうか? 
文句をつけるとすれば、「ここテストに出るからねー!分からない人はおいてくよー!義務教育じゃないんだから」みたいな伏線を強調する文が散見される点か(ブラフかも)。

多層的って?

一番分からない点は「多層的に読める」と言われている点だ。細かい曖昧な点はあるとしても、以下以外に読みようがあるのだろうか。以下激しくネタバレ。いやそんなネタは無ry)

  • 1章「ケルベロス第五の首」 サント・クロアのクローン男が先代クローンを殺害。ここに地球人マーシュ博士(自称)が客として来訪していた
  • 2章「『ある物語』 ジョン・V・マーシュ作」 サント・アンヌ民話。サブタイトルよりマーシュが採取した記録と思われる。人間砂歩きが先住種族影の子と親交を深める。影の子の集合意識「老賢者」は自分たちこそが人間であり、砂歩きたちが人間に変身している先住民であり、影の子は土着の麻薬で得た超能力でセンサーをごまかし、惑星の存在を隠していると主張。砂歩きは失われた半身「東風」に捕らわれる。同じく捕らわれた影の子がテンパッてジャミングを解除。即座に地球からワープしてくる移民船。
  • 3章「V.R.T」 捕らえられたマーシュ(自称)の手記を読む士官。マーシュはサント・アンヌにて現住種族ハーフ(自称)のガイドV.R.Tを伴いフィールドワークに赴く。2章はV.R.Tが語った話であること(?)、V.R.Tがマーシュになり替わっていること(?)が暗示される。

たとえば3章のどの項がマーシュ作でどの項がV.R.T作なのか、影の子が旧世代移民であるのは自明として砂歩きたちは本当に先住種族なのか、さらにその前の世代の移民で結局地球オリジンの人類しかいないのでは? など細かい点でいろいろ曖昧な点があるとしても、それは「多層的」ではないよなあ。
上の乱暴なあらすじレベルで全く違うメタストーリーがあると言うことだと思うのだが、それは読み取れなかった。
私が全然気づいていない物語が語られているのかなあ。

メモ

覚え書き。日本語の書評サイトであまり話題にならなかった点のみ。間違いや、3読目で自己解決する部分も多いだろうが、どこかで踏ん切りをつけておかないと。

  • 東風が去勢されているのはどういう意味? 双生児の対比を出したいのだろうか。男子と男でない者との。でも砂歩きも男でないかもしれないよな。女への種付けは木がやるみたいだし。
  • 影の子がジャミングしていたのはサント・アンヌのみ?サント・クロアと両方?
  • 東風は麻薬の力で砂歩きになり、砂歩き本物を殺害してなり替わるが、3章で出てくる線路歩き=シンダーウォーカー=サンダーウォーカー=砂歩きには明らかにシャーマン能力がある。ということは単純になり替わるだけでなく能力の融合もあるのか。
  • マーシュがやたらめったらハンティングするのはどういう意味? やはり、スパイで、射撃の訓練をしているのか。
  • マーシュは結局人類学者? 哲学者? 2章で老賢者が「偉大な思想は常に獄中で執筆された」と言っている箇所があるので、V.R.Tに「獄中で執筆する哲学者」にあこがれがあり、逮捕されたのをこれ幸いと哲学者を名乗っている*4としたいところだが、残念ながらV.R.Tの父がマーシュから名刺を受け取って「哲学者様ですか」と言うシーンがある。やっぱりいい加減なのか?ということはスパイなのか?
  • 動物の名前 2章ではキジモドキやカチカチジカ、ニセワシなどの名前が登場する。地球の雉を知っている者がサント・アンヌ土着の似た鳥に名付けたわけで*5、つまり名付け手は地球人。となると誰が名付けたかが問題になるが、これは影の子。理由は「白鳥」という固有名詞があること。そして砂歩きは同時に聞いた「狐火」「口笛吹き」は覚えたにもかかわらず「白鳥」だけを覚えられなかったこと。単に意味のない音スワン?シーニュ?として聞いたからだろう。影の子=地球人であることがよく説明されている。ちなみに最後の影の子の名前は「狼」。3章では「猫」「鹿」が出てくるが、これは有史以後の移民船(フランス系かイギリス系)が持ち込んだものだろう。
  • マーシュゲイ説というのがあるらしい。V.R.Tは思いっきりヘテロだから、それを手がかりに3章各断片の作者が割り出せるかな。後でやってみよう。

…なんかblog向きでない文章量になってきた。

*1:しかもエルフ…

*2:というか、ウールスウールス言っていたらGMがくださったのだ。懐かしい。Sマスターに感謝。

*3:wikiありがとう!便利!

*4:刑事犯扱いなのに政治犯を自称しているし

*5:この命名法はSfで広く使われる技法。