薪の結婚

薪の結婚 (創元推理文庫)

薪の結婚 (創元推理文庫)

原書は安定供給だけど、浅羽莢子さんの早すぎるご逝去で心配されていたジョナサン・キャロルの新刊が出ました。
いやー今回も最高。
新訳者の市田泉さんは充分な仕事をなさったと思います。大変なプレッシャーだったでしょうが、お疲れ様でした。

ヒロイン・ミランダは富豪相手に珍品のみを扱う高級古書商。いつもいつも、キャロルの考える職業はおしゃれだなあ。前半はヤッピーの優雅な生活が洒脱に語られ、そこに不気味な超常現象が楔のように打ち込まれて、生活は非現実の方向へどんどん転がり出す…という、キャロルお得意のパターン。
今回、ヒロインの性格設定がちょっと面白い。「犬博物館の外で」のハリー・ラドクリフを裏返したような人物。ハリーは性格激悪だが、やってることは最終的には英雄。ミランダは穏やかで良識ある女性だが、なんか…あんた何やってんの? 行動ひどすぎない!? なんて文句を言いながら読み進めたらそこはもう作者の手のひらの上。

つぎに、気の狂ったようなことを書きます。
この小説には、夢幻魔実也が登場します。

黒いスーツと床まで届く絹のケープを身につけた男が、大劇場の舞台中央に一人で立っている。背が高くハンサムで、その魅力的なことといったら、恐ろしくなるほどだ。全身黒で固めている−−衣装、エナメル靴、リコリス菓子のようにつややかな髪。真っ白な肌さえ黒を際立たせる。一目見て、ほんとうの魔法を使える男とわかった。

これは夢幻氏でしょう。つーかこの話「吸血鬼」を裏返しにして展開したような話だよなあ。ああーキャロルに「夢幻紳士・怪奇篇」を送りつけたい!!

さて、このブログでは基本フィクションはネタバレです。あらすじを知ってると面白くなくなるような小説をあまり読まないからなんですが、キャロルだけは例外で、ラストをうっかり知ってしまうとものすごいダメージがあるので以下は隠します(表示モードによっては見えます)。たいしたことは書いてないんですが。
キャロルと言えば「ラストでドッカン」だが、今回は中盤でもものすごいドッカンがあり、ラストも勿論ドッカン。読み終わってたっぷり5分は放心。
しかしこのラスト、いい話…だよね。そのはずなのに何でこんなに怖いんだろう。