母の家で過ごした三日間

母の家で過ごした三日間

母の家で過ごした三日間

マトリョーシカ小説なんて帯に銘打ってあるから、「おっ久々の入れ子メタフィクションかあ、懐かしいなあ」とばかりに、指の関節をポキポキ鳴らしながら読みはじめたら、本の後半になるまでメタ部分が始まりゃしない。しかも作中作に扉がついてるし! 入れ子がたかが3層(現実レイヤーを数えるなら4層)しかないし! 作中人物にその自覚がなく、したがって中側レイヤー(作中人物)から外側レイヤー(作者)への言及もないし!主人公が書けない小説家だと言う設定なんだから、断片の前後が断ち切れているとか、順序がカットアップされているとか、バージョン違いの同じ原稿が複数載ってるとかを期待していたんですけど。入れ子的に面白いのはせいぜい、中のレイヤーに行くに従って、主人公一家のDQNネーム度が上がっていく事くらい。

 そしていつしか妄想が妄想を生み、主人公の脳内ワールドは複雑な様相を呈していく。<書けない作家>のヴェイエルガンスが<書けない作家> ヴェイエルグラッフを生み、そのヴェイエルグラッフの頭の中から、またしても<書けない作家>グラッフェンベルグが出現し、さらに......という具合に、マトリョーシカ人形さながらに書けない作家の苦悶が幾重にも変奏されていくのだ。気をつけなければ、読者はもう誰が誰だかわからなくなってしまうかもしれない。でもご心配なく。それこそが、主人公にとっての<リアルな世界>なのだから。
http://www.amazon.co.jp/dp/4560092079/

バカコクでねえ。20年遅い。日本の小説読みにこの程度の入れ子で「誰が誰だかわからなくな」る人間がいるかつーの。

じゃあつまんなかったのかと言うとそうでもなくて、「フランス男で50代でマザコン諸星あたる、ただしナンパは成功率高し」が主人公のエロ妄想全開のユルーい日常が書かれている小説なんだと頭を切り替えてからはまあまあ楽しく読めた。格調高い教養とおしゃれな体験を全部エロに結びつけるオバカ中年のモノローグが楽しい。「書けない作家の苦悶」というのも全然ウソで、税務署から差し押さえ食らいそうになっててもさして苦になってない脳天気な主人公の唯一の悩みというのが、ママンが仕事の心配をするので書き上げるまで実家に帰るに帰れない、四六時中ママンの事ばっか考えてるのに!ということなのだった。さすがおフランスと言うか、そのママンも「田舎の天然オカン」なんかじゃ全然なくて、若くて奇麗で男好きで、なかなか過去の謎めいた、でも6人の子どもを立派に育て上げたという複雑なキャラクターの未亡人。この本でフランスでは男性の間に帰省ブームが起こったのだそうだ。「えーこんなんで?文化の違い?」と思って読んでいたのだが、ラストで納得。うん、これは実家のママンの顔を見たくなるわ…。

というわけでこの本は、帯と宣伝文句悪すぎ。