ベルリン終戦日記

ベルリン終戦日記―ある女性の記録

ベルリン終戦日記―ある女性の記録

たいていの本は1日で読み終わる夫が苦しみながら3ヶ月もかけて読み、回してきた本。
1945年の陥落前後のベルリンで生活する匿名の女ジャーナリストの日記。
ドイツ側からの第二次大戦の被害報告は、タブーとされてきたのであまりなく、この本も過去いったん出版されたのだが、あまりの反応のひどさに著者がお蔵入りにしていたとか。今回著者が亡くなったので、再刊行に至ったとのこと。
しかしそういう反応はちょと気の毒というか、枢軸国側からの赤軍批判としてこれを読んでも仕方がないだろう。著者の意図はそこにはないし、ソ連軍が他の軍隊に比べて特別レイピストぞろいとも言っていない。銃後の女にはそれを判断できないからでもあるが、著者は日記の中できちんと「今まさにドイツ人の少女をレイプしようとしているソ連兵が「自分の妹もドイツ兵に辱めを受けた(んだからおかえしだ)」とうそぶく」シーンを綴っている。また、ドイツ人男性に対する醒めっぷりも相当だ。

戦場でのレイプは、ドーっとやってきてガーっと略奪&レイプをしまくって去っていくイメージだったのだが、舞台が首都ベルリンとなると話は違ってくる。軍隊は駐留するのだった。
だから、女の矜恃を守る為に命などかけられない。怪我をするほど抵抗したって明日以降もソ連軍はいるのだ。女にとっての選択肢は「継続的な輪姦か、継続的な強姦か」の二択となる。ここで前者を選んだら変態だ。というわけで、語り手は、あっという間に(5日くらい?)レイプ被害者からパンパンに堕ちてしまった(この人、ロシア語がちょっとできるのが裏目に出ている)。しょうがない。他に手がない。だから、占領地の女がレイプされたのか、自分の意志で占領軍についてったかなんて、くだらない議論だと思うわけですよ*1

この本は占領下のレイプ被害に関する日記だと紹介されがちだけど、そうではなくて、タイトル通り終戦前後のベルリンでの生活を綴っている。生活の大部分がレイプで構成されているだけ。だから食料入手の話とか、財産所有の概念がユルーくなってきてお互い盗みまくりになるとか、たまたま逃げ込んだアパートでコミュニティが形成されていくとか、1日ジャガイモ1コで20km徒歩通勤とか、女同士の壮絶自虐ギャグとか、いろんなエピソードがディテール満載で綴られていて、誤解を恐れずに言えば非常に面白い。読書の楽しみがある。この筆致が洒脱すぎる部分で、偽書=フィクションではないかと疑われていた時代もあったという。
特に好きなのは、連合各国の旗を作るエピソード。ソ連旗はナチスの旗から作れて楽勝! アメリカ国旗……みんなで星の数について悩む。青い生地は服から切りとる!ユニオンジャック……重なりありすぎ。ガチガチになっちゃったよ!

構成も見事で、終盤ベルリンが復興して来て、生活も楽になってきて、希望が出てきたと思ったのに…。こんな終わり方だなんて。かわいそうすぎるよう(泣)。心痛むラスト。

*1:戦後補償の問題は別だけど。