庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職

第15回日本ホラー小説大賞作品。あくまで軽い読み物として、まあ良いんではないか。ホラーではない。ホラーってのは

  1. なんか状況が起こってて、登場人物が恐がってる小説。読者は被害者に感情移入して恐がる
  2. なんか状況が起こってて、登場人物は淡々としている小説。読者は異常な状況と登場人物の態度のギャップを恐がる

に2分されるかと思うが、そして選者高橋克彦はこの小説を2に分類するが、そうじゃないでしょ。別にこっちが戦慄するほどの状況じゃない。つーのは、この小説のキモ「遺工師」が外挿であるからだ。べつにホラーで外挿したっていいんだけど、怖さのネタをそこにとってはいけない。外挿法ってのはでっかい、あり得ない嘘を1つだけ小説にぶっ込むという手法なので、それ自体を恐がることはできない。あり得ない嘘なんだもん。たとえものごっついグロ描写で彩られていようとも、だ。本来なら、外挿から必然的に導き出される色々な事件を、読者にも分かる卑近なディテールで描くことによって、はじめて恐怖が立ち現れる。まあ終盤でそうなるのですが、そこも被害者いなくて「いい話」になってるし。

まーそういうわけでこれは青春ストーリーですね。茂原(^^;;)という微妙な田舎で父の遺体加工工場を引き継ぐ三兄弟の、成長物語。天才肌の亡父の影を追いながら、決定的な閃きを体感できず苦悩する職人の長男、家業に全くコミットできず、出生の謎を追う次男。強烈な自傷傾向を持ちながら強烈な愛にも満ちた三男。それぞれが、真に父の跡継ぎとして自覚し、将来的には一つの工場(こうば)で協力して家業を営むことになるだろう予感をもって小説は終わる。さわやか町工場物語! DQNくさーい文体を嫌う人もいるだろうが、「日本の田舎」感が出ていて、ディテールとしては適切だと思った。クドカンでドラマ化してもいいっぽい。

そもそもが、遺体加工業の描写も別にグロい、気持ち悪いと思わないもんなあ。現実の散骨・散灰がロマンチックだというなら、亡妻の皮でバッグ作るのもステキでしょ。どこの街にもこういう工場が一つあるといいよね。

というわけで、読後ハートフルな気持ちになりました。ハートウォーミングストーリーで新人賞を奪られてもと思わんでもないが^^;;。今年のホラー大賞では、他に短編賞の「トンコ」を読んでみたいかな。